letter

by 瀬川辰馬

春もたけなわですね。
つよい風。乳白色の光。空気のなかに含まれた、生きものたちが発する様々な匂い。

10年近く前の話ですが、京都で文化人類学を教えている先生のお手伝いをしていたころ、春の語源は動詞の「張る」と同じで、冬の間に蓄えられた生命力(=「増ゆ」「殖ゆ」)が種や蕾をパンパンに膨らませる季節が春なんだ、とよく先生が仰っていたのをこの時期になると思い出します。

はじまりの季節、変わらず元気にお過ごしでしょうか。

こちらは生活に変化があり、この春から住居とアトリエを再び東京の千住に移すことになりました。

もともとが千葉と東京の二拠点生活で、今後も千葉の制作場所と薪窯はそのまま残すつもりなので、引っ越しといっても、電気窯1台と、いくつかの調理器具と、シャツを何枚か東京のアトリエに持ってくる程度のものでしたが。

これからしばらくは東京をベースに制作し、薪窯を焚くときには千葉で過ごすという感じになりそうです。

二年半ぶりに東京に戻ってきて、一日の過ごし方が変わったかというと、そんなに変わらず。

今までより少し広いアトリエで朝から晩まで仕事をして、今までより少し狭いキッチンに日に2回立ち、眠る前には映画を観ています。
映画をやめて飲みに出る、という選択肢が加わったくらいだろうか、変化らしい変化といえば。昨晩は飲みにいった先で、タロット占い修行中という人と隣り合わせたので、ものは試しと見て貰ったら、ひとこと「出鼻をくじかれがち」とだけ言われました。対策が難しめですが、気をつけようと思います。

東京に戻ってきたことを一般的な意味で前進と呼べるのかどうかは分からないし、いろいろと面倒ごとも山積みだけど、少なくとも季節が巡るようにして、ひとかたまりの時間が終わり、あたらしい時間が始まったんだなというフィールは、ポケットのなかや、郵便受けのなかや、自分が挽いている椀のなかにも、遍くあって。

なんとなく、いい春だなと感じています。

(以下略)