引っ越し

by 瀬川辰馬

正月休みを使って、それまで都内にあったアトリエと自宅を、田舎の方に引っ越した。

房総半島の内陸部にある、山々が午睡に落ちたように静かな田園集落で、棚田状になっている土地の最上段に古い造りの母屋があり、すこし下がったところに、小さなアトリエがある。

毎日、日暮れ過ぎまで、そのアトリエでひとり仕事をする。
仕事を終え、母屋へとつづく枕木の階段を登る道すがら、夜の空と、そこに浮かぶ星々の瞬きが自然と目に入る。

時折、足を止めて、自分がほんの数分前まで夢中になっていた作業と、その光たちとの間に横たわる、あらゆる種類の距離について考えることがあるが、その度、可笑しさと寂しさのようなものが綯い交ぜになった、泣き笑いの気分にさせられる。

想像ができない程に巨大な循環のなかで、気まぐれに与えられた、長くとも数十年のこの限られた時間で出来ることは、恐らくそう多くはなく、また大きくもないのだろう。

恩寵とさえ呼びたくなるような、この短くも特別な時間のなかで。

私は、新しいものや、強いものというよりも、澄んだものを紡ぎたい。

うつわは、それを握るものの悦びのためにある一方で、それに抱かれるものへの祈りのためにあると私は思う。

動植物たちのいのちをたしかに抱き留め、食卓といういのちの循環の場を、僅かでもうつくしいものに近づけるような働きをすることが、うつわという道具の芯である、と。

その芯が、そのまますがたを帯びたようなうつわを紡ぎたいと願うし、またそのための現実的な工夫に没頭することに、喜びを感じる。

結局のところ、僕はうつわという、いのちの入れものを紡ぐ営みを通して、自分自身に貸し与えられたこのいのちと、それをいずれ返さなければならない巨大な循環の渦について、考えを巡らせているのだろう。

その他に考えるべきことは、今の僕には幾ど見当たらない。