初夏
by 瀬川辰馬
初夏には永遠はありふれたもの
ビル街で出会うモンシロチョウ
朝の待合室で流れるゴルトベルク
境内の木陰で買い求めるレモネード
ポールオースターのなにかの小説で、夏の光は事物を区別するのではなくむしろ曖昧にする、という一文があったけどあれは本当だと思う
初夏とは溶けかかった輪郭線のことだ
水のなかの氷のように、風景とわたしを隔てる距離が、時間だけになってしまう季節のことだ
街ゆくひとたちの着る綿の白さ
コンサートホールを満たす雨の匂い
茄子の皮に映った子どもの顔
初夏には永遠はありふれたもの